εに誓って

εに誓って (講談社ノベルス)

εに誓って (講談社ノベルス)

このギリシャ文字シリーズも第4弾です。
今回の主人公は加部谷恵。東京ディズニーランドの帰りに乗ったバスでバスジャックに巻き込まれます。
同じバスには、先輩の山吹早月。こちらは東京へただ遊びに来ていたのだけど、ちょうど加部谷と帰る日にちが同じなので一緒のバスで帰ることになった。バスは雪のためか、30分遅れで出発することになる。そのおかげで山吹も加部谷も乗ることができた。同じように遅れてきた乗客が1人、うさぎのぬいぐるみを抱いた大学生、柴田久美。他の乗客たちは、みんな1人で乗り込んでいる。この団体は「εに誓って」という団体名だった。ある自殺サイトで集まった集団自殺をしようとしている人たちのようだ。
バスで出発してしばらくすると前方で男性が立ち上がり、乗客に丁寧な口調で説明を始める。「このバスをバスジャックします。爆弾も積んであり、バスの中からでも外からでも爆発が可能です。こちらは銃も持っているので不審な行動に対しては発砲する覚悟もある。ただ、できるならば被害はだしたくない。」
乗客たちはパニックも起こすこともなく、ほとんど反応がない。乗客がパニックを起こさなかった理由の1つに携帯電話の使用を犯人が許可した所為もある。バスは高速道路を東京から中部国際空港へ時速60キロという遅いスピードで走行する。加部屋は西之園と、山吹は海月と赤柳探偵とそれぞれ連絡をとっている。
バスジャック犯は外部ともつながっていて、これは政治的なジャックのようで、犯行声明も出されている。しかし、このバスジャックの組織の1人が事件前に警察につかまっていたので、バス以外の爆弾の設置場所が判明して、そちらは爆弾処理班によって解体がすすんでいる。爆弾は無線のようなもので起爆する仕組みなっているので、携帯電話の使用を許可していた部分もあるのかもしれない。
バスからは犯人の言葉で2人の男女が降りたい旨を申し出たので、バスを降りることを許された。その後、トンネルを出発したバスは炎上したまま、崖を転落した。集団自殺は成功したのだ。しかし、加部屋たちは降りた2人の男女には含まれていなかったのに助かった。
実はバスの出発前に運転手が殺されていて、その通報をした第1発見者が同僚だったので、運転を代理でしていた。
警察は突入のために、トンネル内で携帯電話のブースターアンテナを切った。そのすきにバスに乗っていた警官が催涙ガスを撒き、犯人を取り押さえ、加部谷たちを救出した。
種明かしをすると、バスジャック犯の組織の1人を先に捕まえていた警察は、爆弾処理の時間かせぎのためにバスジャックをわざと成功させたように見せかけていた。本当の「εに誓って」の団体は定刻どおりに別のバスに誘導して出発していた。だから、30分遅れのバスには「εに誓って」の団体に扮した警察が乗っていたのだ。そこに予定外に遅刻してきた加部谷たちが乗り合わせてしまった。断ることも作戦の不自然さを見せてしまうので、乗せざるを得なかった。警察官だからみんな落ち着いていて、時間稼ぎのために予定よりも遅いスピードで走っていたのだ。爆弾の処理が終わったことが分かったので、トンネルで警察は行動を起こしたというわけだ。しかし、もともとの「εに誓って」の団体は、代理で入った運転手さえもその団体のメンバーだったので、集団自殺をやりとげたというわけだ。降りた男女は自殺を思いとどまった2人だった。
いろんな乗客の思考や状況を書いて、場面を明らかにしていたのだけど、それがトリック。1台のバスと見せかけて、実は2台のバスの乗客の様子を描いていたようだ。森博嗣らしい感じです。