作家小説

作家小説 (幻冬舎文庫)

作家小説 (幻冬舎文庫)

有栖川有栖です。作家小説ということで、登場人物の主人公が作家の短編集。作家が主人公の小説はなかなか多いし、有栖川有栖自体も自分の名義そのままで登場していることも多いが、作家を主人公に話をすすめることにこだわった作品。ミステリーや漫才などいろんな種類の作品がある。
「書く機械」は、遅筆ながら期待されている新人作家を一気にベストセラーにする話。そのために、出版社の地下の秘密の部屋の機械が使われる。作家を椅子に固定して時間がすすむごとに、レールに沿って後ろに移動していく。レールの行き着く先は底なしの穴。ワープロで文字が打たれると後ろに進む時間が遅くなる。それ以上に打てば前にさえ進む。穴に落ちて死なないために、寝る間も惜しみ、精神をしりきれさせながらも書く。椅子を含めた装置ではなくて作家自体を書く機械にしていく。
「殺しにくるもの」は、全国各地で起きる謎の殺人事件。被害者には共通点が何もない。しかし、状況的にはそれらが同一犯であることを示す証拠がある。どういう理由で知れるのか分からないが、ある作家の本を読むと殺されてしまうらしい。犯人が作家なのかどうかも最後まで明かされない。それが、ある熱狂的なファンの女の子のファンレターをうまく組み合わせることによって表現されている。最後にその女の子がファンレターを書いている途中で殺されてしまう。
「締め切り二日前」は、繰り返すというホラーの手法。締め切りがあと2日とせまっているのに、内容もまったく思い浮かばず、1文字も書いていない。昔の手帳やメモを頼りにいろいろなものを考え出すが、いつも判断をしてくれる母親がうなずかない。そして、そのうちに編集者がきてそのことを話すと、「それは母親ではなくてただの人形ですよ」と言ってしまう。ということすら内容としてどうかな、と母親に相談している様子。
「奇骨先生」は、作家の奇骨先生に高校生の図書委員がインタビューに行く話。たまたまこのインタビュアーの高校生の父親が、頑固な編集者だったのでその子供に現状の出版業界の話をして、小説家と言う夢をつぶすという復讐の話。再販売価格維持制度や本屋の返品システムなどの問題がわかりやすく書かれている。
「サイン会の憂鬱」は、売れ始めの作家が出版社のお願いで自分の地元の本屋でサイン会を開くことになる。しかし、そのサインをもらいにくる人物は奇妙な人ばかり。本の矛盾点などを細かく指摘してくる人、わざと難しい漢字の名前を書いてくるようにお願いしてくる人、サインをもらいに来てそのまま喀血して救急車で運ばれる人、最後には自分が殺してしまった人がよみがえってまで現れる。これらは全部編集者の手の込んだ嫌がらせだと考える。しかし、これは全部夢だった。自分が人を殺した場所に帰らないで済むことをうれしくほくそえむ。
「作家漫才」は、漫才調で2人の作家兼漫才師がお互いの状況や作品などをおもしろおかしく伝える。スランプや批評の厳しさなどを愚痴のように語る。
「書かないでくれます?」は1番ホラーらしい作品。よく作家は小説のネタのためにいろいろな話を聞く。タクシーの運転手の話などはなかなか参考になる。人づてに聞いたタクシーの運転手の話を参考に小説をかいたところ、それを教えてくれた人物が行方不明になってしまった。その話は金魚の卵と思って育てていたものが、ボウフラだったというもので恥ずかしいから書かないでくれと約束されていた。約束した本人ではないからいいと思い書いたが、話を教えてくれた人物が消えてしまったことに責任を感じる。そんな時に乗ったタクシーが頼んだ方向と違う方向に進みだす。「書かないでくれといったでしょう」と言いながら。
「夢物語」は、小説のネタを夢から得ようとして、それを助ける機械の力を借りる。しかし、この機械と医者の医療ミスで夢の世界に閉じ込められてしまう。その世界には、物語というものが存在しないので、主人公が今までに読んだいろんな物語をみんなに語り英雄扱いされる。盗作という作家の欲望を書いた話。

作家を主題にしてもいろんな方向からかけるものだ。作家らしい悩みや問題が書かれていて楽しい。「書く機械」「締め切り二日前」などのホラーっぽい作品の方が僕の好みだ。