タイムスクープハンター シーズン4・第5回「緊急警備!辻斬りを阻止せよ」

殺人・駐車違反・酔っ払い・遺体処理など、江戸時代の武家屋敷周辺の治安を守っていたのは武士でも同心でもなく、普通の町民だった。


1772年(明和9年)2月25日、江戸。武家屋敷の並ぶとおりに1軒の小さな小屋があった。防犯のために設置された見張り番所。今回の取材対象は町の治安を守る警備員「辻番」。
取材初日深夜、辻番小屋の近くの旗本屋敷の並ぶ通りで殺人事件が発生、犯人が近くに現れたという情報が入った。辻番が現場に急行し、ろうそくを消し慎重に捜索をすると、物陰から覆面の男が刀を振り回しながら飛び出てきた。辻番の1人が足を切られ、犯人はそのまま逃走した。この犯人が辻斬りの犯人だと思われる。辻斬りとは「武士が無差別に人を斬りつける行為で戦国時代から江戸時代初期に頻発した、今でいうところの通り魔殺人にあたる」。辻斬りの目的は、刀の斬れ味を試す、腕を磨く、憂さ晴らしなどいろいろある。
次の日、辻番の人材斡旋業者の大沼屋与左衛門によると、昨日の重症のけが人の復帰は難しそうとのことだった。本来夜番は4人という決まりもなんとか3人でやりくりしてきたが、それを2人でまわせないかという相談だった。辻番のリーダーの佐吉は早い人員補充をお願いした。辻番は刀や武器の扱いにも慣れていないただの町人なのだ。辻番の仕事をしている理由を問うと、仕事がなくてたまたま辻番が空いていたから、元は武家屋敷で奉公をしていた、時回りだけの気楽な役目と聞いて引き受けたがぜんぜん違ったなどいろいろだった。辻番は辻斬りが頻発した江戸時代に1629年に幕府が辻斬り対策として設置した。それから数は増え続け徳川吉宗時代には900を越えた。小さな大名や旗本は経費節約のために共同で設置し町人を雇った。
2日後には辻番に欠員補充で八兵衛という老人が入った。幕府は60歳以上の老人を雇うのを禁止しているが、経費削減のために守られなかった。翌朝には68歳の新人八兵衛が出勤し、昼夜2交代制の中でまずは比較的安全な昼間勤務となった。辻番の仕事は、当初は辻斬りの防犯だけであったが、だんだん職務が増え、ゴミの不法投棄・大八車牛車の駐車違反の取り締まり・捨て子病人酔っ払いの世話までやるようになった。辻番の監視領域は境石という地区の境目にあった場合は、遺体の足のある地区が処理を行うという決まりがあった。他にも番所は寒くても必ず開け放しておく、博打・副業の禁止など細かいルールがあった。
新人教育担当の人が別の番所に辻斬りの情報を仕入れに行く間、八兵衛は留守番を頼まれた。そこには侍が通りかかり、口から何か吐き出していった。ゴミの不法投棄として注意をすると、もめてしまった。高齢者と馬鹿にしている行為だった。次には酔っ払いが通りかかった。辻番が老人だと思い絡んできたらしい。「辻番は生きた爺父の捨てどころ」という川柳にもあるように、辻番は給料の安い年老いた親爺ばかり雇うようになり隠居の場と揶揄されるようになった。酔っ払いが番所で寝ていると、新人教育担当が帰ってきて情報がなかったことを伝える。酔っ払いの相手をしてはいけないと八兵衛を注意した。初日は夕方5時に仕事が終わった。
しかし、辻番達は不安になった。これからは辻斬りが現れてもじいさんの身を案じなければならず、かえって足手まといにならないかという問題だった。先日の辻斬り実行犯はまだ捕まっていないのだった。
次の日の昼、リーダーの佐吉は安全のためにも八兵衛にやめるように説得を始めた。そこに隣町に番所で辻斬りが発生し、このあたりに犯人が逃げ込んだという情報が入った。犯人は左手にさすまたがはいり深い傷があるらしい。夜勤明けの辻番も残り厳戒態勢が敷かれ、通行人の監視にあたった。左手に傷のある侍がいたので尋問したが、さすまたとは異なる傷でただの痴話喧嘩の引っかき傷であった。
さらに監視が続けられた。夜勤で疲れていた辻番の代わりに、強く監視していた八兵衛が身なりのきれいな侍に話しかけた。どうやら身分の高い侍のようで雇い主に無礼を言い渡すという責任問題にまで発展しそうになった。しかし、袖口からかなりの量の血がたれた。突然刀を抜く侍、この男が辻斬り犯だった。辻番は武家屋敷の裏まで追い詰めたが、そこには酔っ払いがいて人質にとり空き家に立てこもった。5分後なんとか辻番がこじ開けると犯人に顔を切られ血だらけの男がいたので、戸板に乗せ番所まで手当てのために八兵衛ともう1人が運んだ。八兵衛が手当てをし、もう1人は医者を呼びにいった。さらに空き家の捜索が続けられると、自害したかに見えた犯人がいた。しかし、それは酔っ払いであり、人質と犯人がすり替わっていたのだ。
辻番が急いで番所に戻ると、辻斬りと対決する八兵衛がいた。辻斬りが八兵衛に切りかかった瞬間、八兵衛の投げ技が決まり、そこの駆けつけた目付けたちにより犯人は捕まった。今回の辻斬り犯の犯行理由は千人斬りと呼ばれるもので、1000人の人を斬ると自分の病気が治るという身勝手なものだった。
八兵衛は以前は侍だったようで、今辻番をやっている理由は斬ったりはったりが嫌いだからと答えた。今回の件で信頼を得た八兵衛は明日から夜番もやるようになった。時代がくだると辻番は高齢者ばかりになるが、それは平和になってきた証でもある。
その後の調査によると、けがをしていた辻番が復帰し八兵衛は解雇されることになったが、若い辻番たちが自らの給与削減と引き換えに八兵衛の解雇を阻止した。