小さな手のひら

 昔から上を向いてしか眠れなかった
 明かりを消して どこまでも続く暗闇を見ていた
 手を伸ばせば触れることのできる天井
 そう 暗闇は無限じゃない
 そのうち暗闇にも目が慣れてきて
 濃い黒と薄い黒になる
 手の輪郭が見える
 見上げた僕の手はただ黒い
 ドラムでできたまめも ギターだこも
 切り過ぎた深爪も ペンだこも
 切れてるけど長い生命線も ささくれも
 暗くて見えない
 ただ ただ僕の手の輪郭がはっきり見える
 手のひらも手の甲も小さい
 あぁぼくの手はなんて小さいんだろう
 これじゃ何もつかめない
 つかめなくて 溢れて 離れていってしまう
 僕だってちゃんとつかみたかった
 おいしい食べ物 きれいな絵
 かっこいい楽器 やわらかい服
 泣ける本 
 そして 愛する人の手
 全部僕の手をすりぬけて こぼれていった