タイムスクープハンター 第4シーズン 第9話「紙くずリサイクル激情」

江戸時代にはふすま、文書、障子、手紙など紙はいたることころで使われていた。江戸は世界中の都市の中でも特に多く紙を使っていたという。それを支えていた卓越した紙のリサイクル技術。どのようなものだったか取材にあたる。


1843年(天保14年)6月9日、江戸。天秤棒にかごをぶら下げて古紙を買い取ってまわる男がいる。この紙くず買いの男に今回は密着取材をする。紙くず買いの男の名前は弥兵衛という。紙くず買いは、紙くずだけでなく古着や古道具の買い取りも行なっていた。しかし、弥兵衛は紙くずだけを専門に扱っている。世界の人々は日本を訪れるとその紙の使用量に驚いた。ドイツのシュリーマンの記録によると、鼻をかむときに海外ではハンカチなのに日本では紙であることを書き残している。紙くず買いの利益は少ないが、江戸から紙がなくなることはなく、この商売が切れることはないと安心していた。
弥兵衛に声を掛けてきた大手呉服屋の奉公人さえというなじみ客がいる。いつも通りの反古紙の買い取りを行った後に、お代はいらないからと訳ありの手紙の回収の頼んできた。想い人との大事な手紙であるが、これで終りにしないといけないと買いとってもらうことにしたらしい。しかし、相手は所帯持ちの遊びであったかもしれないと弥兵衛は心配していた。
集めてきた古紙は、立て場と呼ばれる古紙の仲買商のところだった。立て場に買い取られ、その後漉き返しとう業者に回され再生紙として生まれ変わる。回収した古紙は、白(きれいな紙で一部に文字が残る)、反古(書画などを書き損じた紙)、下物(ごみが混ざった紙)により分けられる。この分け方で金額が変わる。そこにふすまなどに紙を貼る職人の表具師の俊吉が現れた。女郎屋のふすまに空いた大穴を直すという急な仕事が入り、修理の下張りとして反古紙をもらっていった。なぜきれいな紙よりも文字の書かれた紙や古い物がいいかというと、文章の墨の部分に防虫の効果があるかららしい。そのおかげで現代でも寺院などの古い建物のふすまから歴史的に重要な文書が発見されることもあるらしい。
その翌日、紙くず買いによく似た男を見かけた。しかし、それは道に落ちた紙くずを拾う専門業者で紙くず拾いという別の職業であるらしい。江戸の街は当時の世界の都市と比べてもきれいであり、それはこのようなリサイクル業者のおかげかもしれない。
いつものように立て場に訪れたところに、血相を変えた女性が乗り込んできた。それはさえの先輩のお杉であった。買い取った古紙に文がなかったかと問い詰めてくるが、弥兵衛は細かいことはわからないととぼける。興奮状態のお杉は立て場の紙をひっくり返し昨日のさえの文を探しているらしい。やがて立て場の人が昨日の表具師がふすみの張替えに持っていった可能性があると言ってしまった。女郎屋の場所も白状してしまい、その文を追ってお杉は女郎屋に向かってしまった。さえに状況を聞くとさえと新さんの間が噂になりそれが店に知れると困り、さらに実は新さんはお杉とも通じていたらしい。今回の件はお杉の嫉妬に狂ったゆえの行動だった。自分がなんとかすると弥兵衛が行動を起こした。
弥兵衛は表具師の俊吉の元を訪れる。恋文はすでに女郎屋のふすまに使われてしまった後だった。女郎屋には弥兵衛には話をつけるので、俊吉にはすべてはがしてほしいと頼み、恋文奪還作戦として女郎屋に向かった。しかし、女郎屋の前にはすでにお杉がいたが女郎屋の人間に足止めをさえれていた。気付かれないように裏口にまわる。事情を話しふすまの部屋まで行ったがふすまを取り外すと隣の部屋に客がいた作業ができなかった。客が帰るのを待てといわれるがここで諦める訳にはいかない。文の内容が呪いの文で苦し紛れの言い訳をして、ふすまをはずさずに紙だけはずすという提案に江戸一の俊吉が意地で作業にあたることになった。
店先の様子を伺うためにタイムスクープハンターは、最新のカメラ「モスキートカム」を放つことにした。モスキートカムからの映像では、相変わらず店先で男ともめていた。店先ではお杉がついに賄賂を渡し男が折れ始めていた。その時にはふすまの下張りがはがれ恋文が姿を表した。恋文を無事にはがし、ふすまの貼り直しをした。お杉は文についての詳しい事情を話していた。作業を終えたが部屋には恋文やごみが散らばっていた。ついにお杉が袖の下を渡し、女郎屋に入ってきた。弥兵衛と俊吉は必死に片づけ、外に見えた紙くず拾いに拾わせるために外にごみを投げた。しかし、お杉が部屋までせまり逃げ場がなくなっていた2人は客を装って将棋を打っているふりをしていた。
ここでお杉はかまわず部屋に入り込んできて、ふすまをはずした。その部屋の向こう側にいた客はなんと新さんであった。他の女と通じていたらしい。女郎屋の女にも所帯を持つなどの約束をしていたらしい。さえとも通じていたことをとぼける新さんに証拠をみせるためにふすまを剥がすお杉。でてこない文にいらだつお杉、まだ白を切る男。そのまま修羅場に突入し、男女入り乱れての大騒動になった。そのどさくさに紛れて弥兵衛と俊吉は表にでることに成功した。モスキートカムは依然としてその騒動を撮影していたが、ついに巻き込まれて壊れてしまった。
肝心の紙くず拾いに拾わせた文の行方を追うことにした。立て場に運ばれた古紙は、紙すき屋に運ばれる。古い紙を細かく千切り鍋で1,2時間煮る。煮詰められた紙を棒で叩き、繊維をより細かくする。水洗いをして汚れを取り除く。繊維を溶かし、1枚1枚新しい紙を漉きあげる。水分をしぼったあと、板に貼り付け天日干しで3,4時間乾燥させる。乾いた紙をまとめて完成。こうした業者は浅草に多く、価格の安い再生しは浅草紙ともよばれちり紙に使われた。出来上がった再生紙は古紙問屋を通してまた紙屋に下ろされることになる。
ここにさえがまた半紙を買いに現れた。今回の騒動について弥兵衛にお礼を言う。漉き返して生まれ変わればいい、人も紙も同じじゃないかとうまいことを言った。生まれ変わったように清々しい顔でさえは帰っていた。次に小道からでてきたのは今回の騒動の問題の男新さんだった。ちり紙を買って鼻をかんでいった。紙を通して見る人間事情もいろいろであった。
その後の取材によると、お杉は店の主の紹介である商家に嫁ぎ江戸を去った。さえは店に残り女中頭まで出世した。弥兵衛は古紙問屋になりリサイクル事業で大成功した。