dinner 第2話「居場所をなくした料理人」

不安な顔でロッカビアンカに出勤する沙織。閉店のお知らせの張り紙が見えた。店内に入るとスタッフはみんな私服で口々に別れの挨拶をして出て行ってしまった。江崎が現れて「だからこの店は潰れると言っただろう」と言い残して消えていった。いやーと叫ぶ沙織。
これは支配人部屋で寝てしまった沙織が見た夢だった。ロッカビアンカ再生計画とタイトルだけ決めた企画書のパソコン画面をにらむ沙織。その時に厨房から音が聞こえ、こわごわのぞくと江崎が食材や火も使わずに鍋や調理器具でシミュレーションをしていた。柱を使ったりしてうまく移動し効率的に料理を作る方法を研究していた。沙織の姿に気づくと「この厨房じゃだめだ」と江崎は言った。
出勤してきた今井は江崎に「メニューとレシピを全部見せてくれ」と言った。江崎はメニューとレシピを見比べながら、何かを考えていた。他のスタッフが出勤すると厨房の道具や調味料の位置が変わっていた。
ホールでミーティングが始まる。今日から料理長をつとめる江崎だと自己紹介し、「俺が料理長である限りは俺のやり方にしたがってもらう」と言った。厨房の配置を変えたのも江崎だった。勝手に変えられるとやりにくいとスタッフは文句を言ったが、「料理は2,3秒で味が変わってしまうものもあり最高の料理を提供するために配置を変えた」と説明した。理屈は正しいので反論できないが、「みんなに相談してからでも」と今井は言った。「不満があるならやめてもらう、それからメニューも見直す」と江崎は続けた。「本格的なイタリアンが並んでいるがそれは凡庸なので、これでは失った常連客を取り戻せない」と言った。オープンから辰巳の作った同じメニューだけで勝負してきたとスタッフが食い下がったが、「当時はそれでよかったが今はイタリアンは何軒もあるからだめだ」と江崎は言った。辰巳のメニューを楽しみにしている常連すらいなくなると沙織も言ったが、「シーザーのメニューはシーザーがいてこそのもの、シーザーがいない今では勝負にならない。新しい客には新しい料理だ」といい、メイン料理を鳩のローストに変更しレシピをスタッフに渡した。
スタッフが従えないと口々に文句を言うと、「全員従えないのなら俺がこの店にいる意味がない」と江崎は出て行こうとした。沙織が江崎を引きとめ仲裁に入ったが、スタッフはまだ文句を言っている。副料理長の今井は「みんなでがんばったが客足は落ちる一方、お客さんはみんな辰巳の料理を食べにきていた。江崎は昨日料理を食べただけでミスを言い当てた。店を守るためには俺たちだけではダメで新しい料理長が必要だ。」と江崎によろしくおねがいしますと頼んだ。江崎はスタッフに下準備をさせて、今井と2人で出掛けた。
出かけ先は肉屋で、鳩を見に行ったのだった。江崎はそこで他の客が丹波の猪肉を取引しているのを見て、肉の良さに感激し鳩から猪に変更した。メインも鳩のローストから変更になった。最高の食材からできる料理を想像して江崎は喜んでいた。


沙織に江崎から電話があり、スタッフへ鴨から猪に変更になったと伝えられた。ソースなどもレシピどおりに用意していたスタッフたちは勝手すぎると怒る。
夜の営業時間になりお客さんも入ってくる。厨房では今井がオーダーを読み上げ、江崎はとりあえずスタッフの動きなどを見ている。厨房の配置が変わったせいでスタッフも混乱している。江崎はピーマンの芯をちゃんと取り除くことやソースににんにくの香りが強いからやり直せなどの厳しい指示を与えていく。今井は不服そうに見ていた。
ついに今日のメインにしていた「猪のドルチェ・フォルテ」のオーダーが入り、まずは江崎が作ってみせた。全員が自分の仕事の手もとめて、江崎の調理の様子を見つめる。
新料理長を迎えた大変な1日が無事に終了した。スタッフは控え室にはいり、江崎のチェックの細かさに文句を言っていた。そこに皿洗いが昨日までより食べ残しが減ったと発言し、新しい料理長のおかげかもとみんなは少しだけ考えた。今井は少し思うところがあるようだった。
沙織と壮一と今井は居酒屋で話をしていた。今井の江崎への評価は厨房への指示も的確だし、料理に対する厳しい姿勢もよかったというものだった。良い緊張感は厨房だけでなくホールにも伝わり、メインの猪のドルチェ・フォルテも好評だったと壮一も言った。しかし、30年守ってきた料理を変えてよかったのかと今井は釈然としない様子だった。そこで沙織が辰巳の部屋から見つけたノートを出した。ノートには新メニューの構想が書かれていて、その日付は辰巳の倒れる1ヶ月前だった。壮一が辰巳の修行したテレーザのマークについての話を始める。テレーザのマークの2つの翼は、テレーザをつくった兄弟を表している。テレーザは兄弟の母親の料理の伝統的な郷土料理を追求し続けた兄と、それをもとに新しい料理を作り続けた弟、兄弟の伝統と革命が融合し、イタリアで1番有名な店になった。沙織は辰巳の考えていた新しいレシピは今井に受け継いでもらい完成させてほしいと頼んだ。
翌日今井が出勤するとすでに江崎は厨房で新しいメニューの開発をしていた。新しい看板メニューが必要だとがんばっていた。今井は辰巳のレシピを見なおしたが、他のスタッフが出勤したことで隠した。
夜の営業時間になり料理ができる度に江崎は匂いをかぎ、やり直しを命じたりOKをだしたりした。デザートとしても新しいものを開発させアドバイスをしていた。そこから自分でも何か思い浮かんだようで厨房から突然いなくなった。スタッフは江崎がいなくなった瞬間に大きく息を吐き、リラックスした。そこにシェフと話がしたいという客がいるので、江崎に代わり今井が応対することになった。新メニューの猪のドルチェ・フォルテがとてもおいしかったので、来週も予約をしたいということだった。
初期にロッカビアンカの厨房にいた川田が客として訪れ、今井を呼んだ。後で折り入って話があるということだった。その後飲みに行き、川田は辰巳の後をつぐ料理長は今井しかいないと思っていたと、新しい料理長が入ってきたことを残念がっていた。ロッカビアンカに2人の料理長はいらないだろうと川田は恵比寿に系列店をだすので来月から料理長をやってくれと今井を誘った。今井は今自分があの店を抜けるとスタッフがばらばらになると断った。川田はまだ時間があるからと返事を待つことにした。
今井は帰りに厨房により辰己のレシピを元に新メニューの開発を始めた。朝までやっていたようで江崎が出勤してきて、料理をみて面白い案だと言った。いろいろ試したことを今井は言ったが、江崎に全部だめと言われた。じゃぁ何を入れるんだと今井がきくと豚足をいれ、ベルモットで味付けをする言って作り始めた。ソースなどを作り始め、パスタは今井にまかされた。江崎はソースに満足したようだった。江崎はいちいち感動しながら、今井は黙々と作業を続け、厨房での立ちまわりでもうまく融合し、試作品が完成した。今井はうまいと言ったが、江崎はまだ感動が足りないと満足できないようだった。今井はこれでなぜ納得しないのかと不満そうだった。沙織や他のスタッフにも試作品を食べてもらい好評だった。しかし、今井は江崎がほとんど作ったこととこれでも江崎はまだ満足していないと正直に話した。
夜の営業時間に入り、スタッフたちが江崎の要求どおりに味付けなどができ始めたことで、今井は厨房をでていく。今井は川田に電話をすると、1度店を見てから決めてもいいんじゃないかと誘われた。仕事が終わった後にスタッフたちは江崎のことを料理オタクや絶対友達いないだろなどと言いながらも前よりも嫌っていないようだった。はづきが店をでるとまた刑事が待っていた。はづきの父親が東京に戻っていてATMの監視カメラにうつっていたので、連絡があれば知らせてほしいと言って刑事は帰っていった。
夜の営業時間は終わったが江崎は朝の続きで新メニューの開発をしていた。今井が厨房に入ってきた。江崎はうれしそうに料理の案を語り、スパイスは何を入れるかと今井に質問した。今井は「あんたの欲しい味は分からない。レシピを見ただけ他のみんなが満足するよう味を作り上げ、それでもなぜ満足してない?」と褒めると共に質問した。「現状に満足したら俺たち料理人は終わる。常に進化し続けるのが料理人の仕事だろ」と江崎は答えた。
翌日、今井は川田の新しい店を訪れた。川田が内装や厨房を案内する。厨房にはスタッフがいて新メニューを開発していた。今井は味見をしてアドバイスをし、そのまま作り始めた。それをワインの納品業者が見ていた。来月からよろしくおねがいしますとスタッフは挨拶をしたが、今井は何も答えなかった。
恵理子と大樹がワイン蔵で話をしている。恵理子は江崎の猪料理を評価し、それに合うワインを探していた。興味があるのはやつの料理だけかと大樹はつっかかる。そこにワイン業者がやってきて、恵理子が応対した。今井が川田のお店で来月から料理長として働くという話を聞き、それは沙織と壮一にも報告された。
今井がロッカビアンカに出勤すると、スタッフはみんなホールに集まっていた。川田の店に行くのは本当かと質問された。「私はもうこの店に必要のない人間です」と今井は答えた。「辰巳の背中をずっと追いかけてきていずれは後継者になりこの店を守りたがったが、もう江崎がいるからその必要はない」と続けたが、スタッフはみんなやめないでくださいとお願いした。そこにホールから江崎が出てきて「やめたい人間をとめる必要はない」と辰巳のノートを渡した。今井はそのノートももう必要ないと言ったが、江崎は「今開発中のメニュー以外にも挑戦的な新メニューがたくさんある。これがどういうことか分かるか?辰巳もこのままでは店がだめになると分かっていたんだ。そんなことも分からないからあんたは副料理長止まりなんだ。さっさとでていったらどうだ」と言った。今井は黙ったまま店を出て行った。
夜の営業時間になった。江崎がオーダーを読み上げる。スタッフは料理を作りながらも今井が本当にやめちゃうのかと心配していた。今井は1人で居酒屋で飲んでいた。江崎の「現状に満足したら終わりだ、辰巳も悩んでいた、だから副料理長止まりだ」という言葉を思い出していた。「お前ならスパイスに何をつかう?」という言葉を思い出し、七味唐辛子を手に取りロッカビアンカに今井は戻った。
厨房に駆け込むなりあんたの欲しいスパイスが分かった、七味唐辛子だと言った。それだと江崎も答えた。厨房で試作品作りを始めようとする今井にはづきがコック服を渡した。今井は着替え試作品作りが始まった。他のスタッフも厨房に駆け込んできて2人の作る様子を見ていた。スパイスの調合を細かく何度もして、何度も味見しては2人とも首を振っていた。今井の作り上げたスパイスに江崎がようやくうなづき、ついに試作品が完成した。食べた2人は笑いながら本当に満足していた。
翌日から新メニュー「フィナンツィエーラ ラザニア風」が店にでた。お客さんにもかなり好評だった。ホールの様子を見ていた今井も笑顔を見せる。今井は川田に電話し「ロッカビアンカはいい店ですよ」と料理長の件の断りの電話を入れた。客を見送った沙織は壮一にテレーザの2人の兄弟の話をしましたよねと笑って言った。江崎は今井にもっとよいスパイスが浮かんだから今夜も付き合えと言った。